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そこは潜伏キリシタンの里だった。

崎県南松浦郡新上五島町。ここは長崎の港から小さな船で西に1時間半のところにある島。いわゆる五島列島は、南北の二つに分けられ、上の島は「上五島(かみごとう)」、下の島はただの「五島」と地元民に呼ばれている。私が訪れたのは上五島。観光客が多いのは、より大きな町のある五島だが、今回は大型連休で予約が集中し宿がとられず、やむなく上五島での滞在となった。

エメラルドグリーンのフカウラの海

 

旅の目的は綺麗な海を眺めながら、ただただぼーっとすることだったのであまりリサーチをせずに現地入りした。確かキリスト教弾圧の歴史があったところだと思ったので遠藤周作の「沈黙」だけは鞄に入れて。いざ現地に着くとやはり日本人。予定をきゅんきゅんに詰め込み、忙しなく観光し始めた。世界遺産に指定された頭ヶ島天主堂をはじめとする29の教会郡、日本有数の美しいビーチ、2シーズン同時に楽しめる天体観測、そして、キリシタン洞窟クルーズ。私はこのクルーズで一人の神父さまに出会った。

ハリノメンド

 

五島の南西に位置する若松地区。桐教会というレンガ色の教会の二つ奥にフカウラという集落がある。キリシタン洞窟クルーズはなんとここの神父さまの船で開催された。

キリシタン洞窟とは、明治時代初期に上五島でも始まったキリスト教弾圧から逃れるために4家族8名が険しい断崖の洞窟に身を隠した場所だ。彼らは炊事の際、焚き火の煙を漁船に見つかり水責めを受けたという。

洞窟の中。歩くのがやっと。

 

すぐ横には、ハリノメンドと呼ばれる幼いイエスを抱くマリア像の形をした岩礁もある。今でも船でしか行けないらしい洞窟を小さな漁船に揺られて巡った。洞窟はバカみたいにデカかった。身長よりも大きなベージュの岩にゴロゴロと行く手を阻まれ、容易には向こう側に抜けられない。全体はまるでバラエティ番組のセットかと思うほどに大きく、その歴史とは裏腹に皮肉にもコントにしか見えない非現実的な景色だった。

洞窟入り口

 

入り口に祀られている真っ白な十字架と聖人がベージュ色の洞窟とエメラルドグリーンの海とで見事なコントラストを見せている。船を運転してくれたジャージのおじさんは集落の神父さまだった。神父さまはクルーズの合間にポツリポツリとその歴史を話してくれた。

—私はフカウラの神父です。ずっと昔、私の先祖の潜伏キリシタンはこの里にたった二人でやってきました。聖書とロザリオを持って。フカウラには教会はありません。代々神父の家に集まりひっそりと祈りを捧げてきました。神社はありますし、神主さまも訪れますが、全てはカモフラージュです。神父は私で6代目。そこで遊んでいるのが8代目かな。私たちは近年、長崎にいらっしゃったヨハネパウロ2世さまに教会へ入る許しを頂きました。でも、私たちは教会には行きません。今日までキリスト教弾圧によって迫害を受けてきた多くの潜伏キリシタンのことを思うと、簡単に教会に入ることはできません。この先も私たちはここで、私の家で祈りを捧げ続けます。— 

 

この国には多くの傷跡がある。となりの長崎でも原爆で吹き飛ばされた大きな教会の楼閣を見てきた。教科書で習ったゲンバクとかヒメユリノトウかイオウジマとかそういう悲しい歴史は、暗さと悲惨さゆえ日常会話では口にすることさえはばかられる。だけど、現地に行ってステークホルダーの話を聞くことや現物に触れることでその重さや暗さとはまた別のところで歴史的な事実に純粋な気持ちで出会える。だから自分の目で見て聞くことが大切だ。神父さまが「ここだけしかないよ。」とくれた紫色をした“潜伏キリシタンのお餅”のつるんとした食感が甘く舌に残っている。(まなみん)